2020.11.05|鈍るのは 刃ではなく それを持つ手である

– 奚月藁 –

鈍るのは
刃ではなく
それを持つ手である
  Non ferrum hebetatur, sed manus.

2020.11.05

体のどこかに
まだ夜が残っている。

深い色の杯の縁で
白い気配がほどけ、
朝は
少しだけ
目を覚ます。

机の向こうでは
人の声が
静かな水面の上を
滑ってゆく。

制度は
古い橋に似ている。

人が変わっても
渡り方は
そう簡単には
変わらない。

言葉は
何度も交わされるが、
その多くは
空気の中で
すぐにほどけてしまう。

机の上に
紙が広げられる。

水の濁った流れのように
言葉にならないものが
机の上を漂う。

しばらくすると
その上の部分だけが
静かに澄んでくる。

人は
そのわずかな部分を
掬い上げて
形にする。

だが
仕事は
そこから始まる。

刃は

使うときではなく

使う前に
研がれる。

人も
同じである。

早く横になる。

暗い部屋の中で
考えだけが
まだ起きている。

今日の言葉
今日の沈黙
今日の迷いが

ゆっくり
ひとつの石の上で
擦り合わされる。

刃を研ぐ音は
外には聞こえない。

だが
夜は

そういう小さな音を
次の日へ
静かに運んでゆく。

– 奚月藁 –

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