2020.11.06|刃は 振るう者より 収める者に従う

– 奚月藁 –

刃は
振るう者より
収める者に従う
  Ferrum non vibranti, sed recondenti paret.

2020.11.06

本来なら
人の少ない日であるはずの場所に
あえて足を運ぶ。

紙の上には
夜のあいだに溜まった
言葉の群れが並んでいる。

それを一つずつ
静かな川の流れのように
流してゆく。

小さな店の前に
人の列ができている。

誰も
急いではいない。

だが
この列は
ある記憶のために並んでいる。

人は
味よりも
思い出の場所へ戻る。

机の上に
地図のような紙が
広げられる。

組織は
城に似ている。

塔が増えるほど
見張りは多くなるが、
動きは
ゆっくりになる。

戦は
いつも
勝つ場所で
起こるわけではない。

重要なのは

どこで
退くかである。

退くというのは
逃げることではない。

それは
刃を
鞘に戻す動きに
似ている。

言葉は
数字の形をして
静かに並ぶ。

人は
その共通の印を頼りに
同じ方向を見る。

灯の下で
古い書物が
開かれる。

そこには
大きな勝利の話は
あまり書かれていない。

多くの場合
書かれているのは

負けなかった人間の
静かな判断である。

不敗というものは

前へ進む力より
退く場所を知る
冷たい感覚に近い。

そして

その感覚だけが
次の戦いを
静かに
残してゆく。

– 奚月藁 –

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