2020.11.07|濡れるものほど 美しく見える夜がある

– 奚月藁 –

濡れるものほど
美しく見える夜がある
  Sunt noctes quibus madentia pulchriora videntur.

2020.11.07

小さな畑は
静かに開かれる。

種は
昨日と同じ場所で
同じ季節を
ゆっくり続けている。

昼を過ぎるころ
道は
遠くへ伸びてゆく。

車の窓の向こうで
空の色が
少しずつ
柔らかくなる。

人の体から
静かに
時間がほどけてゆく。

湯気の中で
肩の重さが
ゆっくり
軽くなる。

灯りの下で
皿が並び、
一日の旅が
ゆっくりと
体の中へ収まってゆく。

外へ出る。

雨が降っている。

新しい革は
まだ
水の重さを知らない。

だが
雨は

どんな物にも
同じように
降る。

しばらく歩くと
花の庭に着く。

暗い空の下で
花は
小さな灯のように
咲いている。

赤や橙の色は
雨を含んで
静かに深くなる。

光の道が
遠くまで続き、

人は
その中を
ゆっくり歩いてゆく。

旅は

遠くへ行くことより
同じ景色を
並んで見ることに
近い。

雨の夜は

世界の色を
少しだけ
やさしくする。

– 奚月藁 –

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