– 奚月藁 –
鐘が鳴る
足跡が残る
Campana sonat; vestigia manent.
2020.11.10
空気が
街の角に
静かに立っている。
人の声は
まだ
遠い場所にある。
机の上に
紙が積まれている。
そこに書かれているのは
言葉だが、
言葉は
放っておくと
どこへも行かない。
紙の上では
どんな道も
まっすぐに見える。
だが
道は
歩いたあとに
初めて
形になる。
遠くで
小さな鐘が鳴る。
音は
空気の中に広がり、
人を
静かに
立ち上がらせる。
合図は
大きな声ではない。
ただ
最初に鳴る
小さな音である。
外へ出る。
地面には
まだ
誰の跡もない。
最初の足は
いつも
少しだけ重い。
それでも
一歩
もう一歩と
踏み出していくうちに
道は
後ろに
現れてくる。
人は
足跡を見て
歩くのではない。
歩いたあとに
それを
見つける。
街の灯りが
静かに揺れている。
遠くで
誰かの足が鳴る。
その音は
朝よりも
少しだけ低い。
だが
その音のあとには
もう
いくつもの
足跡が残っている。
– 奚月藁 –
