– 奚月藁 –
人は眠ろうとするが
古い言葉は眠らない
Homo dormire conatur; verba antiqua non dormiunt.
2020.11.04
街はまだ
完全には動き出していない。
紙の包みの中で
温かいものが
静かに湯気を立てている。
金を払う。
だが
金は
時に
値段ではなく
使い道を
考えさせる。
遠い場所で
古い言葉が
ゆっくりと交わされている。
人は変わるが
型は変わらない。
それは
水のようで、
器を替えながら
同じ形を
続けてゆく。
机の上に
紙が広げられる。
考えは
濁った川のようだ。
時間が経つと
その上の部分だけが
静かに澄んでくる。
人は
そのわずかな部分だけを
掬い取って
言葉にする。
古い革が
机の上に置かれる。
乾いた布が
静かに表面をなぞる。
道具は
人より先に
一日の終わりを受け入れる。
灯りを消す。
だが
夜は終わらない。
体は横になっているが
思考は
まだ机の前に座っている。
紙の上の言葉が
暗闇の中で
ゆっくりと形を変える。
眠りは
近くまで来ているのに
なかなか
こちらへ渡ってこない。
時間だけが
静かに
長く伸びてゆく。
眠れない夜は
不思議なもので、
頭の中で
古い型が
何度も
やり直される。
人は眠る。
だが
伝統は
夜のあいだも
目を閉じない。
– 奚月藁 –
