– 奚月藁 –
革は
手の時間を覚えている
Corium tempora manuum meminit.
2020.11.03
窓の外の光は
まだ新しい頁のようで、
時間は
ゆっくりと開かれてゆく。
小さな畑に
また種が蒔かれる。
季節は
静かに巡り、
昼は
いつのまにか
午後の畝を照らしている。
皿の上には
深い色の海があり、
湯気は
ゆるやかな雲の形をして
部屋の中を漂っている。
甘い菓子の匂いが
午後を
少しだけ
柔らかくする。
やがて
夜が来る。
机の上に
古い革が置かれる。
鞄は
不思議なもので、
持ち主の時間を
少しずつ
吸い込んでゆく。
油を含んだ布が
その表面をなぞると、
乾いた土地に
雨が落ちるように
色が
ゆっくり
深くなる。
革は
急いで変わらない。
ただ
長い時間のあいだ
触れられた記憶を
静かに受け入れてゆく。
夜は深く、
机の上の鞄は
まるで
長い旅のあとに
休んでいる動物のようだ。
手入れは
新しくすることではない。
それは
過ぎた日々を
もう一度
表面に戻してやる
小さな仕事である。
– 奚月藁 –
