戸口から海が見えた。
舟を引き上げた浜の、その先だけが白い。
前の男が進んだので、私は敷居を越えた。板の冷たさが足の裏へ移る。脱いだ草履は、踵をこちらへ向けて揃えた。
男の背で奥は見えない。
脇に座った者が紙をめくった。
名を呼ばれると、前の男が返事をした。同じ名をもう一度確かめられ、肩がわずかに上がる。男は下を向いたまま一歩進み、ほどなく横へ退いた。
私の番になった。
帳面を開いた者が、こちらを見ずに訊ねる。
寺の名を答えた。
筆の先が紙へ下りる。
父のときから同じ寺だった。寺へ行く道なら知っている。帳面のどのあたりにその名が入ったのかは、こちらからは見えなかった。
足元を示された。
木の枠に、人の形があった。
顔らしいところは明るく、端へゆくほど黒い。前の男が足を置いたあたりだけ、薄く曇って見えた。
近づくため、左足を出す。
板の継ぎ目が親指の下へ当たった。
右足を上げると、身体が左へ寄る。脇にいた者の手が動いたので、そちらを見る。もう一度、足元を示された。
踵が先に触れた。
冷たかった。
爪先まで下ろす。
枠の縁が、土踏まずの外へ当たった。
人の形は足の下へ隠れた。膝の脇から、明るいところだけが少し見えている。
顔を上げた。
向かいの壁に細い割れ目があった。
誰も私を見ていない。
筆を持つ者は帳面へ目を落としている。もう一人は戸口のほうを向き、次の名を呼んだ。
私の名ではなかった。
足を戻す。
板の上に湿った跡が残った。
次の者が近づいてくる。草履を持って脇へ退き、指で鼻緒を起こした。足の指がうまく入らない。いったん下ろし、もう一度入れ直す。
戸口には日が差していた。
外にいる者たちの口が動いている。肩越しに誰かが手を上げた。私は草履を履きながら、片方の踵を板の端へ残していた。
後ろで、また紙をめくる音がした。
土へ下りる。
二、三歩すると、草履の中に砂が入った。
足を止めて草履を振る。鼻緒を指の間へ深く入れ直し、そのまま浜のほうへ歩いた。
舟の下へ人が屈んでいる。
引いた波の跡へ、次の波が薄く広がった。
白い縁が伸び、崩れる。
私はそれを見ていた。
音は、少し遅れて聞こえた。





