Umbras dimitto, lucem colligo.

ハンガーに睡る背広や春驟雨

背広は、入口に近い壁へ掛けた。

肩の厚いハンガーへ上着を通し、内側へ折れた襟を直す。ズボンは横木に掛けた。裾を揃えると、ポケットの裏地が少し出た。

彼女は窓際で髪をほどいていた。髪留めを卓へ置き、こちらを振り返る。私は上着の内側から携帯を抜き、鞄へしまった。

窓の下を車が通るたび、天井に明るい帯が動いた。彼女がカーテンを半分だけ閉じた。

しばらくして雨になった。

細かな雨粒が続けて窓を打ち、向かいの建物が白く霞んだ。彼女は起き上がって窓辺へ行く。卓の時計は、そろそろ支度をするつもりだった時刻を過ぎていた。

水を飲み、グラスを置く。濡れた底の跡が残った。

壁の背広には、カーテンの隙間から薄い光が当たっている。肩から袖へ布が折れずに下り、袖口だけが壁へ触れていた。着ていたとき身体に沿っていた前身頃は、胸の下から平らになっている。

彼女が戻り、腰を下ろした。寝具がその重さへ引かれ、膝に掛かっていた端がずれる。そのままにしていると、彼女が自分の側から引き上げた。

雨音の奥で、水の流れる音がしていた。

彼女は髪留めを取り、掌で一度包んでから、また卓へ置いた。私も時計へ手を伸ばしかけ、代わりにグラスを持った。

雨が弱くなる。

向かいの窓が一つずつ現れた。彼女が立ってカーテンを開けると、壁の背広まで明るくなった。

ズボンを横木から抜き、脚を通す。シャツの釦を留め、上着を外した。

支えを失った肩が掌へ沈んだ。

片腕を通す。裏地が肘にまとわりつく。反対の袖を探すあいだ、背中の布が斜めに引かれた。

彼女は鏡の前で髪をまとめている。

襟を持ち上げ、肩を収めた。

前身頃が胸へ戻った。

窓の外では、濡れた車道をタイヤの音が通っていた。

空いたハンガーが壁へ触れた。

指を添えると、止まった。

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