読んでいた行へ葉の影がかかった。文字を追ううちにそこだけが明るくなり、次の行へ目を移すと、頁の端が翳った。
庭へ出るガラス戸は半分開いていた。椅子を引けば日を避けられたが、背を肘掛けに預けたまま、本を膝の上で少しずらした。
この数日で木は葉を揃えていた。枝先に淡い一枚が残り、風の止んだあとにも裏を見せている。やがて葉が返ると、重なりのほどけたところに空が細くのぞいた。
左の掌で本の背を受け、右手で頁をめくる。紙は指の腹へかすかに吸いついた。読みはじめには薄ら寒かった袖口も、いつか肌に貼りつきかけている。
数頁戻ったところで、栞が落ちた。
本を机へ伏せて身を屈める。革紐の先が椅子の脚を越えたところに見えた。指先で引き寄せると、床に溜まった綿埃がそっと動く。栞の縁にも白いものがついていた。親指で払えば、革は細く艶を戻した。
栞を本の上へ置き、座り直す。
左の掌には、本の背の角がまだ細く残っていた。肘掛けに載せて指をひらく。掌の中央に赤い筋が一本ある。何も持たなくなった手は、さきほどまでとは収まりが違う。手首をわずかにずらし、小指のところを肘掛けの縁へ掛けた。
奥で戸が動いた。水の流れる音がつづき、ほどなく止んだ。
庭の低い枝が揺れる。重なっていた葉がほどけ、隠れていた幹があらわれた。風は少し遅れてガラス戸を越え、開いた袖口をひとたび膨らませる。掌を渡った風に、ひらいた指のあわいが涼しくなった。
伏せた本には、葉の細い影が載っていた。
頁の端が一枚だけ浮いた。しばらく震え、戻る。読みかけのところは見えなくなった。
手を返しかけて、やめた。
掌の窪みに日が差している。指をわずかに曲げると、明るいところが細くなる。庭でまた葉が重なった。影は指のあわいを渡り、親指の付け根までひろがった。
右手で本を取り上げる。
伏せていた頁をひらくと、覚えのある一節がすぐにあった。そこへ目を落とす。本の重みは右の掌へ沈み、左手にはまだ何も載らない。
葉が一枚返った。
掌の赤い筋だけが、明るいまま残った。





