彼女はベッドの端でストッキングを穿いていた。膝まで引き上げたところで手を止め、腿に貼った絆創膏の端を押さえる。
窓際にはまだ日があった。私は床から拾ったシャツを着て、釦を下から留めていた。部屋へ入ったときには寒がっていた彼女も、もう何も言わない。暖房は少し前に切ってある。
ストッキングが絆創膏に引っかかるらしい。
彼女は指の腹でその縁を撫でた。浮いていた角が肌へ戻る。そこを押さえながら布をゆっくり引き上げると、薄い色が腿を覆い、絆創膏だけが肌の色へ近づいていった。
私はもう片方を渡した。
爪先へ指を入れ、縫い目を直してから、彼女は布を足へ通す。そのあいだに私は残った釦を留めた。
どうしたのかと訊きかけたところで、彼女は鞄から携帯を出した。画面を見るのは一度だけだった。そのまま鞄へ戻す。
私は袖口の釦を留めた。
スカートを穿くと、さっきまで見えていたところは隠れた。
この服は前にも見たことがある。裾の裏に小さな糸が出ていたことまで覚えている。今日はそれがない。
彼女は鏡の前へ椅子を寄せた。
私は空いたベッドに腰を下ろし、靴下を穿く。片方だけ裏返っていた。爪先から直していると、鏡の中で目が合った。口紅を塗るために少し開いていた彼女の口が、その形のまま笑う。
帰りに何か食べるかと訊いた。
彼女は時計へ目をやった。今日は食べずに、買物をして帰るという。洗剤もそろそろなくなるらしい。
私にも買うものがあった。
昨夜、帰りに牛乳を頼まれていた。朝には覚えていたのに、ここへ来る途中で忘れた。
彼女は髪を耳へ掛け、襟の内側へ指を入れる。私は上着を着た。
椅子の下にストッキングの袋が落ちている。
拾って差し出すと、彼女は中を覗いた。薄い袋を折り、もう一度折って、鞄の脇へ収める。
部屋を出た。
エレベーターの中は廊下より冷えていた。彼女がコートの釦を上から二つ留める。私は自分の襟を直した。
外へ出ると、建物の影が通りを半分覆っていた。
駅へ向かう角まで並んで歩く。
途中の薬局で、彼女の歩調が緩んだ。店先に積まれた箱を見る。けれど中へは入らない。嵩のあるものは家の近くで買うらしかった。
角を過ぎると、また同じ歩調になった。
信号が変わる前に、彼女は反対側の歩道へ渡る。
渡り終えたところで、一度こちらを見た。
私は手を上げた。
彼女も小さく手を上げ、それから向きを変えた。人の流れに入ると、コートの裾が肩と肩のあいだに二度ほど見えた。三度目には、もう見えなかった。
私は駅の階段を下りる。
地上の明るさが、一段ごとに背後へ細くなる。
牛乳のことを思い出した。





