Umbras dimitto, lucem colligo.

夏来る橋に町の名遺りけり

会議室のガラスに、机を運ぶ二人の姿が重なっていた。

壁のモニターは外され、接続口には白い蓋がしてある。床には机の脚を置いていた跡が四つ残っていた。私はタブレットの一覧を開き、会議机一台、収納庫三台を確かめる。複合機と端末類は、前日に搬出を終えている。

入口の社名表示もなくなっていた。

ガラス越しに廊下まで見通せる。受付カウンターには、端末の配線を通していた丸い穴だけが残っている。

担当の社員は、回収した入退室カードを数えていた。番号を照合し、透明なケースへ一枚ずつ重ねてゆく。私の分だけは、退出まで手元に残すことになっている。

搬出業者の携帯が鳴った。

車が荷捌き場へ入れず、表の通りに停まっているらしい。

電話を代わり、管理会社から届いた案内図を画面に出した。住所は合っていた。地図の印も建物の中央にある。ただ、裏の入口へ回る道順がない。一つ先の角へ入り、道が狭くなったところで戻ったという。

社員が手を差し出した。

携帯を渡すと、窓のほうを向いた。橋の名を告げ、しばらく聞いてから、もう一度同じ名を伝える。橋の手前から川沿いへ入れば、荷捌き場の標識が見えるらしかった。

ほどなく、作業員が台車を押して戻ってきた。

収納庫には養生材が巻かれ、その上から青いベルトが掛かっている。二人で持ち上げると、台車の車輪がわずかに沈んだ。向きを変え、自動扉が開くのを待って廊下へ出てゆく。

最後の机がなくなると、声がよく響いた。

社員は会議室の照明を消し、壁際の操作盤で空調を止める。送風の音だけが残り、それも少しずつ細くなった。

私は一覧の搬出済みに印が揃っていることを確かめ、署名した。控えはその場で届いた。画面を閉じる。

ガラスの向こうで、社員が鞄を肩に掛けていた。

一階でカードを返し、受付の台帳へ退出時刻を記入した。社員は移転先へ戻るため、タクシー乗場のほうへ歩いていった。

私は駅までの道を確かめ、橋へ向かった。

外は思っていたより暑い。鞄の持ち手を握り直し、歩きながら上着を脱いだ。

橋の端に名が彫ってあった。

さきほど電話で繰り返された名だった。

近づいて見ると、それは住所を整えるときに削除した町名でもあった。

石に刻まれた文字の溝だけが影になっている。欄干の上には、まっすぐ日が当たっていた。

橋を渡りはじめる。

下の道から、搬出を終えた車が出てきた。

荷台には、さきほどの収納庫が載っている。養生材の端から、小さな札が一枚のぞいていた。

剥がし忘れた管理番号だった。

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