扉は、人ひとり通れるほど開いていた。
外の明るさを背にして入ると、奥はよく見えない。石の床を数歩進んだところで、自分の靴音が後ろからも聞こえた。足を止める。それでも、まだ誰かが歩いているように音が残った。
通路の脇に腰を下ろし、鞄を隣へ置いた。
留め金が背凭れに当たった。小さな音が頭上へ上がり、どこかで硬さを失って消える。鞄を引き寄せると、底が木を短く擦った。
入口で取った案内を開く。天井の断面図が載っていた。紙の上では細い線だったものを探して顔を上げる。柱をたどってゆくうちに線は暗がりへ入り、その先には窓の色だけが浮いていた。
前のほうに二人いた。
離れた席に座り、どちらも動かない。祭壇の脇には扉があり、さらに上には手摺のついた場所が見える。そこに人影はなかった。
案内を畳んだ。
紙の音が、思いのほか近かった。
膝へ置いた手の甲だけが白く見える。外を歩くあいだ汗ばんでいた襟元も、いつか冷えていた。背凭れへ深く寄りかかろうとすると、椅子の脚が鳴った。
途中で身体を止める。
少し待ってから、ゆっくり腰を戻した。
奥で誰かが立った。
靴音ははじめ姿のあるところから聞こえ、次には柱の陰へ移った。扉が一度鳴る。そのあとにも低い響きが残り、やがて聞こえなくなった。
座っている場所からは、扉が閉まったのかどうかわからない。
腕時計を見る。
夕食の約束には、まだ間があった。
手首を膝へ戻すと、上着の裏地がかすかに擦れた。
高い窓の色が薄くなっている。さきほどまで見分けられた柱の片側も、もう一方と同じ暗さになった。
鞄を持って立ち上がる。
今度は留め金を掌に包んだ。
通路へ出ると靴底が一度鳴った。音を待たず、そのまま歩く。入口には外の道が細く明るく見えている。
扉へ手を掛けた。
押すと、内側から戻されるような重さがある。肩を入れて開き、身体を外へ出した。手を添えたまま扉を戻す。
隙間から見えていた暗がりが細くなる。
最後まで閉じるには、少し時間がかかった。
石段にはまだ昼の熱が残っていた。靴底を通して、その温かさがわずかにわかる。乾いた土の匂いがした。
道の向こうまで渡る。
振り返ると、聖堂の屋根の上に星がひとつ見えた。
扉はもう、壁と同じ暗い色だった。





