呼鈴が鳴ったとき、どんぶりの底にはまだ少し残っていた。
箸を縁へ渡して立つ。向かいの妻も腰を浮かせたが、私が先に廊下へ出た。背後で椅子を引く音がした。
玄関には、小さな箱を抱えた配達員がいた。端末へ署名するあいだ、扉を足で押さえる。踵が床を滑り、開いたところから冷気が裾へ入った。新年の挨拶を交わして箱を受け取る。
見た目より軽い。
台所で使う消耗品を頼んであったのを思い出した。扉を閉め、箱の底へ両手を回す。廊下を戻るにつれて、裾に入った冷たさが薄れた。
妻はティーポットの蓋を開けていた。
箱を食卓の脇へ置き、伝票の角を爪で起こす。表面だけが薄く剥がれた。持ち直して引くと、宛名の途中で切れる。紙の端を擦っていた親指が乾き、爪の際に糊が残った。
妻がケトルを持ち上げたので、手で制した。
蓋が戻る。ケトルの底が台へ触れ、短く鳴った。
箱を壁際へ寄せる。剥がしかけた伝票が指に触れ、また貼りついた。離すとき、皮膚だけがわずかに引かれた。
窓の下で雀が鳴いた。
鉢の陰から一羽出て、土をつついている。首を上げるたび、喉のところが小さく動いた。妻も窓へ顔を向ける。
雀は鉢の向こうへ回った。
縁から尾の先だけが見えていたが、やがてそれもなくなった。
椅子を引いて座る。
脛に食卓の影が重なった。さきほどまで日の当たっていたところは、もう椅子の脚の外にある。
どんぶりには、片方の箸が少し斜めに載っていた。
右手を伸ばす。親指と人差指に収め、中指を添える。玄関へ出る前には気にならなかった木の角が、指の腹に当たった。
妻はティーポットの脇へ、読みかけの本を伏せた。浮いていた頁の端がゆっくり下り、食卓に触れる。
左手でどんぶりを引き寄せる。
縁はもうぬるい。胴の下には、まだ少し温かさが残っていた。掌をそこまでずらし、底に沈んだものを箸で寄せる。汁の表面に薄い輪がひろがり、器の縁へ届く前に消えた。
妻も匙を取った。
汁を口へ運ぶ。思っていたよりぬるかった。
飲み込んでから、どんぶりの胴をもう一度包む。
窓の下で、短く雀の声がした。
箸は置かなかった。
そのまま窓のほうを見た。





